前回のあらすじ
ある日、「私」は机の引き出しに入れておいた1万円が無くなっているのに気が付く。息子が盗った!? ショックを隠せない「私」であったが、何としてでも1万円を取り戻さなくてはならない! 事件の後、ミョーにテンションの高い息子を相手に対決の時が刻一刻と迫る・・・!
詳細はこちら!!→息子が親の金を盗っていました。~消えた1万円~前編
対決!
夕食後。私は一番下と真ん中の子と一緒に和室に居た。遊んだり、TVを観たりしていると、妻が長男を部屋に呼ぶ声が聞こえてきた。息子は全てを話すだろうか? 時間はかかるかも知れないが、話すだろうと私は思っていた。息子は嘘をつけない性格だ。それは良く分かっている。
(さあ、早く全てを喋ってしまえ! そして、ここに来て謝罪するのだ!)
(お前のやったことは全てお見通しだ! ワハハハハハハハハハ・・・!!)
私は次のような場面を想像していた。和室の襖が開いて、泣きはらした顔の息子が現れる。息子の後ろには妻の姿。その妻に促されるようにして、私の前までやってくる息子。そして、こう言うのだ。「パパのお金盗ってごめんなさい」と。もうするんじゃないぞ、と息子を諭す私。親として厳しく注意した後は、寛大な姿勢も見せておかなければなるまい。
そんな想像を何回も繰り返しても、一向に息子が姿を現す様子はなかった。一体、どうしたのだ? 妻と息子の話はまだ終わらないのだろうか?
それから1時間程経過した頃、和室の襖が静かに開いた。息子は俯いていた。少しの間、和室の入り口に立ち止まっていたが、妻に促されて私の前まで来た。
(やっと来たか・・・! さあ、早く全てを話すのじゃ!)
だがしかし、次の瞬間、息子は私が全く思いもよらなかった言葉を口にしたのであった。
「パパ、ごめんなさい。僕、ママの貯金箱から2千円盗りました」
(え? えっ?)
「でも、パパのお金は盗ってません。引き出しも開けたことないです」
(なんだってーーーーーーーっ!?)
ちょ。お前、何言ってんの?
思わず、妻の顔を見る。
(どうなってんの? 一体?)
妻の説明によると、次のような内容のやりとりがあったらしい。
妻と息子の会話
妻「息子。お前、パパとママに隠していることがあるんじゃないのかい?」
息子「はい、あります」
妻「今なら話を聞く時間があるから、話せる気になったら話してごらん」
妻によると、この後、息子はしばらくの間、黙って下を向いていたらしい。30分位して、それからようやく話を始めたとのこと。
息子「僕、ママの貯金箱から2千円盗りました。でも、その後で凄く苦しい気持ちになった。大変なことをしてしまったと思いました。ごめんなさい。もう二度としません。でも、パパのお金のことは知りません。本当に知りません」
妻によると、息子はこの話をする前はかなり目が泳いでいたそうだ。何か隠し事がある。妻はそう感じたらしい。しかし、ここまで話した後はそのようなことはなく、従って、私の1万円のことは本当に知らないのではないかという意見だった。
ちなみに、実際に妻の貯金箱からは2千円が無くなっていたとのこと。その2千円でガチャをやって運良くレアカードのセットを当てたり、UFOキャッチャーで運良く大量の景品を取って来たらしい。息子は千葉鑑定団だけではなく、他にもゲームセンターや学校でも行くのを禁止されているアミューズメントパークにも独りで出入りしていたことも素直に告白したらしい。
失意と怒り
妻「本当に大変なことをしてしまったことが分かってるみたいだし、今までに見たことがないような真剣な表情で謝っていたから信じてあげてもいいんじゃないかって思う。こちらが聞いてもいないことも自分から話したんだよ。それに・・・」
私「それに?」
妻「私が盗られた2千円は本人が今持っているお金から返して貰ったから!」
私「それじゃ、1万円は? 俺の1万円はどこに・・・?」
妻「それは分からないけど、もう1度良く探してみたら?」
ちょっと待てーっ!
何でそうなるんだよ! 何で急に、「やっぱり、あなたの勘違いじゃないの?」みたいな流れになるんだよ~。完全に息子を信頼しきっている。いや、信頼するのはいいんだよ。だけど、今回の事件は何だっけ? 俺の金が無くなったことだよね。
正直、妻はもう俺の1万円のことはどうでも良くなってきているッ!
妻「これからは引き出しとか入れておいちゃ駄目だよ。あなたのお金の管理の仕方にも問題があるわ」
ぐぬぬぬぬ・・・。正論なのは分かっている。
正論なんだけどォォォ・・・!
妻「でも、怪しい部分もあるのは確かよね。あの量のUFOキャッチャーの景品やレアカードをそう上手いことゲットできるものなのかしら? 話が上手過ぎるのよね~」
私「そうだろ!」
妻「でも、本人が否定している以上はこれ以上の追求は出来ない。1万円をあなたに返却することもできない」
私「分かったよ・・・」
その後、私は息子と2人きりで話をした。そして息子は、絶対にやっていないと言った。私はもうこれ以上、息子を追及するのは止めることにした。
しかし、この結末。
俺、盗られ損じゃないか!?
私はこのバッドエンドに到底納得できるわけなかった。
誰が盗ったのか? 真相は? 嘘をついているのは誰だ?
1.息子が盗った・・・証拠はないが、状況的にはこれだと思う。1万円という金額の大きさに、素直に話せないんじゃないか? いや、本当にやってないのかもしれない。全ては私の想像の範囲なのだから。
2.娘が盗った・・・この可能性はゼロに近い。娘はまだ5歳。1万円の価値も分からないし、持っていても使えない。そして、私達が仕事で家を留守にする時には、娘を保育園に預けている。だから、娘が勝手に私の部屋に入る機会がない。
3.嫁が盗った・・・これも考えにくい。妻はそういう性格の人間ではない。それに、もし仮に急にお金が必要になったとしても、わざわざ私の所から盗る必要などないのである。私の給料が振り込まれる銀行の通帳もカードも妻が管理している。必要ならそこから下ろして使うだろう。私は通帳とか全然チェックしてないし! やろうと思えばいくらでも小細工が出来るはず。
4.本当に泥棒が侵入した・・・100%あり得ない。
5.私の勘違い・・・前編でも書いたけど、小遣い帖もつけているし、1万円が消える数日前に確かにその存在を確認している。勘違いってことはない! これは100%断言できる。しかし・・・。まさか・・・。あるいは、もしや私は自分でも知らない間に認知症が始まっていたのか!?
6.息子が盗ったが、それを知った妻が不問にした・・・うむ。これは可能性としてはありそう。いや、ないかな。息子が盗っていたことを知った上で、敢えて不問にすることは本人のためにならない。妻の性格を考えればそのような対応はしないだろう。
考えれば考えるほど、訳が分からなくなってきた。今回のことは自分の勘違いではないと断言はしたが、身の潔白を主張する息子の姿を見たり、息子を信じる妻の姿を見ていると、何だかその自信さえも揺らいでいくのを実感した。
そうして、私の中には失意と怒りだけが残った。
エピローグ
この後味の悪さ。そして、私は一体何に対して怒りを感じていたのだろうか?
予想していたのとは違った結末を迎えたことに対して? それとも1万円が返ってこないということに対して? 息子に対して? 訳の分からぬ現状に対して? 妻に対して? 自分自身に対して?
最初、私はその全てに対して怒っていたように思う。その怒りは自分の中で見えない出口を求めて彷徨い続けていた。
あれから5日経った今でも、真相は分からない。
妻が、ほとぼりが冷めた頃にもう一度息子に話を聞いてみてはどうか、と提案してきたが、問題を蒸し返すつもりはない。息子が盗ったのだとしても、そうではないのだとしても、事の重大さは伝わっただろう。私も今後はデスクの引き出しに現金を入れておくのは止めよう。息子はもう10歳だ。今後も好奇心で私の部屋の探検をするにちがいないから。
いや。ここは、敢えてまた引き出しに1万円を入れておこうかのう!!(爆)
トラップを仕掛けてみるか!?
すみません、冗談です。そんなことはしません!!
私「今回は息子を信じてみることにするよ。ただ・・・」
妻「ただ?」
私「1万円補充して下さいッ!」
妻「それで気が済むのなら」
仕方がないなという風に妻は笑った。そして、生活費の中から1万円を私にくれた。
有難いことである。これで気持ちのもやもやが晴れた。
息子に対してはひっかかる点もあるけれど、気持ちを切り替えていこうと思う。
依然真相は分からないままなので、とてもハッピーエンドとは言えない。しかし、バッドエンドではなくなったと思う。
しいて言えば、グッドエンドかな。
それにしても。
妻の貯金箱から盗っていたとは!
~おしまい~
おわりに
自分の子供が親の金を盗る。そのような状況になった時に、一体どのように子供と関わればよいのでしょうか? いつかは経験するのかもと思っていましたが、その日は突然やってきました。どうするべきか、とても悩みました。
事件があったその日は私が夜勤だったということもあって、息子に会うまでに1日空いたことが、結果的には良かったのかもしれません。少し冷静になれたし、妻とも相談することが出来たのですから。金が無くなったと分かったその日のうちに息子と顔を合わせていたとしたら、最初から感情的になって息子を問い詰めていたかもしれません。その結果、もしかしたら、息子の心を傷つけてしまったかもしれません。
また、妻が十分に時間をかけて息子と関わったことも良かったと思いました。話易い環境を整えたり、急かさないで息子の発言を待ってあげたりしたことで、本人が自ら話せるようになったのだと思います。実際に金がなくなり、動揺し、心に余裕がない私が対応していたら、もしかしたら、ここまで素直に話してくれることはなかったかも知れません。まあ、1万円のことは分からず終いでしたが、妻の金を盗ったことやゲームセンターに出入りしていたことは、息子が自ら話してくれたことです。
今回の経験は自分でもとても勉強になりました。前編・後編と長文ですが、最後まで読んでいただき、誠に有難うございます。息子が金を盗ったきっかけは、ちょっとした好奇心だったのかもしれません。あるいは魔が差しただけなのかも知れません。子供が親の金を盗るということは決して珍しいことではないのかも知れないなと思いました。(勿論、そのようなことは起きて欲しくないです!) 今これを読んでいる方の中にも、今後、そのような体験をする方もいらっしゃると思います。その時に私の記事が少しでも役に立ってくれればいいなと思います。